不動産の鑑定評価
不動産の鑑定評価とは、不動産の経済価値を客観的に判断し、価格に表示することです。
不動産は土地を含む資産であり、すべて所在する位置が異なるため、この世の中に全く同じものは存在しません。従って、その経済価値もすべて異なります。
ここが他の資産とは異なる点であり、不動産の市場が形成されにくく、また、市場が形成されても、その中で個々の不動産が持つ経済的な位置づけを判断するのが難しいため、不動産の価格は一般的にわかりにくいものとなっています。
このような不動産の経済価値すなわち価格を判断するには、不動産及びその経済価値に対する専門的な、広くかつ深い知識と経験が必要であり、これを有する者として国家資格を与えられた「不動産鑑定士」だけが、不動産の鑑定評価を行うことができます。不動産鑑定士は、不動産の経済価値に影響を与える様々な要因を分析、検討し、理論的かつ実証的に、不動産の適正価格を導きだします(不動産が有する潜在的な経済価値を顕在化させる作業であるともいうことができます)。
以上のような内容を持つ不動産の鑑定評価は、不動産の適正な価格を証明するものとして、社会的に認められています。
土地の特性と鑑定評価
不動産は全ての国民にとって有限の資源であり、特に土地については、我々の利用の仕方によって全国各地に様々な地域が形成されています。例えば都心部の繁華性の高い商業地域や高級住宅地域、あるいは店舗と住宅が混在している地域など、です。
こうした地域には、それぞれの地域で土地の価格水準が形成されます。
一般的に㎡当たり(坪当たり)○○万円という「地価水準」と呼ばれるものがこれに当たり、特に取引件数が比較的多い住宅地域などでは、この「地価水準」を把握できることがありますが、一方で周辺地域で取引件数が非常に少ない場合や土地の利用方法が混在している場合等では、この「地価水準」を把握すること自体が非常に困難な作業となります。
このようないずれの場合にも、多面的に様々な資料を分析・活用して、「地価水準」を専門家としての不動産鑑定士が客観的に判定します。
またそれぞれの地域で一定の「地価水準」が形成されているとしても、その地域内の個々の土地の価格が必ずしもその「地価水準」と同じになるとは限りません。ある土地は「地価水準」とほぼ同程度の価格になるのに、その隣の土地が「地価水準」とかなり開差が生じた価格になることは特に珍しいことではありません。
こうした個々の土地の価格に違いが生じるのは「個別性」と呼ばれる土地の属性に原因があります。「個別性」とは具体的には、その土地の大きさ、形状、道路への接し方等であり、商業地域と住宅地域によってもその細かい内容は異なってきます。
こうした違いが生じる理由は、地上にどのような建物を建て、いかに利用することが最も適切なのか、がそれぞれの土地で異なるからであり、つまり土地を有効活用できる程度に応じて個々の土地の本当の価値が形成され、それぞれの土地の「個別性」の違いとして価格に現れてくるのです。
以上のように、ある土地の価格を判定するためには、まずその属する地域の「地価水準」を把握し、さらに個々の土地の「個別性」に即した最適な利用方法を判定し、この両者を的確に掴むことによって、土地の本当の価格は分かるのです。
そのためには沢山の資料が必要であり、それらを専門家としての視点から多面的・客観的に分析して不動産の真の経済価値にアプロ-チしていくのが「鑑定評価」なのです。
鑑定評価額はどの様にして決まるか
一般に、私たちがものの価値をはかる場合には、
- 費用がいくらかかったか?
- いくらで取り引きされているか?
- それを利用することでいくらの収益(便益)が得られるか?
といった観点から考えます。
不動産の価値も同様に、これら三点に着目した三つの方式にしたがって求められています。
- 原価方式
- 比較方式
- 収益方式
と呼ばれる鑑定評価方式です。
これらの方式により求められた価格または賃料を、試算価格、試算賃料といいます。アプローチの仕方は違っても、同じ不動産について求められた価格は一致するはずです。
しかし実際には使用した資料の信頼度や方式の適用過程で想定した内容と実体とのズレ、更に不動産の特性等によりそれぞれの試算価格の間にはしばしば差が生じてしまいます。そこで求めるべき不動産の価格により接近した価格を求めるため、これら三つの試算価格を求めた過程を再度吟味し、調整することになります。
このように三つの鑑定評価方式が原則として同等に尊重されて適用され、その適用過程や資料内容等を十分に検討して求められた三つの試算価格を比較調整することによって、鑑定評価額は決められているのです。
「不動産鑑定 評価基準」には、上記で述べた事項をはじめとして不動産鑑定評価についての理論・実務の両面にわたる内容が盛り込まれており、不動産鑑定士にとっての重要な行為指針となっています。
主な鑑定評価方式
不動産の鑑定評価にあたって具体的に適用される手法は、概ね上記三方式のいずれかに分類されます。
方式の名称 | 価格評価の手法 | 賃料評価の手法 |
---|---|---|
原価法式 | 原価法 | 積算法 |
比較方式 | 取引事例比較法 | 賃貸事例比較法 |
収益方式 | 収益還元法 | 収益分析法 |
原価法
価格時点において対象不動産を新たに取得したらいくらかかるか(再調達原価)を求め、ここから時の経過や社会の変遷等により生じた価値の減少分を控除して(減価修正)、試算価格を求める手法です。
取引事例比較法
対象不動産と類似性の高い不動産の取引価格に、補正や修正を加え、更に地域の特性の比較、不動産のそのものの特性の比較をして、試算価格を求める手法です。取引事例比較法を適用して求められた試算価格を比準価格といいます。
収益還元法
対象不動産が将来生み出すであろう、保有期間中の純収益(総収益から必要経費等を控除したもの)と、保有期間終了時の残存価格(売却価格)それぞれの現在価値の総和をもって試算価格を求める手法です。不動産の種類、評価の目的等により、永久還元法、有期還元法、DCF法等があります。
積算法
まず価格時点での不動産の価格(基礎価格)を求め、これに投下資本に対して期待される収益を表す利回り(期待利回り)を乗じて求められた賃料(純賃料)に、必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法です。積算法により求められた試算賃料を積算賃料といいます。
賃貸事例比較法
対象不動産と類似性が高く、賃貸借契約内容においても類似性が高い賃貸物件の賃料に、補正や修正を加え、さらに地域の特性の比較、不動産そのものの特性の比較、契約内容の比較をして、対象不動産の試算賃料を求める手法をいいます。賃貸事例比較法を適用して求められた試算賃料を比準賃料といいます。
収益分析法
一般の企業経営によって生み出された収益を分析して、その収益のうち他の要素に帰属すべき収益以外の収益を不動産に帰属する純収益として求め、これに必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法をいいます。
収益分析法を用いて求められた試算賃料を収益賃料といいます。
その他の方式
開発法:面積の大きい更地の評価において適用する手法
差額配分法:継続賃料の評価において適用する手法
スライド方:継続賃料の評価において適用する手法